今年はなかなかの並びで、お天気にもまあまあ恵まれ、
結構 遠出も出来ただろうGWも終わって。
人々の世では相変わらずに愚かな すったもんだもありつつ、
見苦しくも揉めながら日が過ぎてゆくらしい中。
自然の世界では玲瓏と健やかに
それこそ穢れのないままに胸を張り、
新しい緑がキラキラと
あちらこちらでぐんぐん芽生えている真っ最中。
「そうですよねぇ。
華やかなのでとバラやツツジや
ついついお花に目が行きがちですが。」
「若葉も勢いよく広がり始めますよねぇ。」
ニシキギにはスズランみたいな小さな花が咲き、
水辺にはカキツバタが優雅に花開く。
可憐だったり華やかだったり、ついついああ咲いた咲いたと花の方へ眼がゆくが、
それらを引き立て、吹く風を青々しい香で染めんとばかり、
紫陽花の茂みや
葉がすっかり落ちてたはずのハナミズキなんかが、
いつの間にやら瑞々しい若葉を勢いよく茂らせている季節の到来で。
来週にも始まる中間テストのお勉強にと
その実、
先日にぎにぎしく終わった“五月祭”の最中に
電脳小町の平八が様々な手を尽くして撮った
動画や写真の整理とご披露のため、
三華様こと仲良し三人娘が三木さんのおうちへ集まることとなってのご訪問。
こちらにはご自慢のホームシアター室があるそうなので、
平八があくまでも防犯用にと設置していたそれや、
試験的に飛ばしたという静音性の高い小型ドローンで撮ったもの。
主には自分たちとそれから、
いづれも名家の清楚なお嬢様たちが
学園で最も華やかな催しにはしゃぐ姿などなど、
4K画質でくっきり撮れておりますよと
ひなげしさんが思わせぶりに誘ったの、
一緒に観ましょと構えた週末で。
……お勉強もちゃんとするんでしょうね?(笑)
「あ。くうちゃんだ。」
鉄の格子が厳かに巡らされた広大なお屋敷の中、
彼女らが通う女学園の門扉にも似た、
やはり長い鉄槍を思わせる格子が厳然と訪問者を立ち止まらせる大門を
中から開けてもらって通過して。
ちょっとした公園のエントランスを思わせる前庭を
慣れた様子で白百合さんとひなげしさんが通り抜けておれば。
ライラックの淡い紫の小花が嫋やかに咲いている
生け垣のような茂みの足元に、
茶色のむくむくした毛並みの良い子がちょこんと座っておいで。
顔馴染みなせいか、とてとてと歩んでくると、
こちらを見上げてにあんと鳴いて見せるのへ、
平八がフレアスカートの裾をさばいてしゃがむと
よしよしと顎やら耳の間やらを撫でて差し上げる。
彼女らにも重々縁のあった出会いをした、メインクーンのお嬢さん、
こちらの久蔵お嬢様が甘やかしまくったせいで、
すっかりと貫禄のある体格になっているものの、
毛並みのお手入れも行き届き、
「わあ、相変わらず撫で甲斐のある子だことvv」
もっともっとと擦り寄って来る愛嬌ものへ、
平八がお顔をほころばせ、
「ウチのイオはこうまで触らせてくれませんもの、羨ましいなぁ。」
七郎次もチョイと短めのスカートをよけての
お膝に手を置いて中腰になり、良い子良い子と撫でてやっておれば。
目の前だったライラックの木立の端っこ、にあんと猫の声がして、別の子が顔を出す。
「あら。」
「久蔵殿。」
お友達を出迎えにと向こうからも出て来ていたらしい、
こちらのご令嬢が新緑の中に顔を見せたのだが、
その懐に抱えられていたのが、これまた結構な体格のお嬢さんこと、別の猫様で。
久蔵が溺愛しているくうちゃんと どこか似たような体格の長毛種ながら、
そちらはキジ柄、白地にグレーの色合いの毛並みが
ずんと密に伸びておいでの、北欧の貴婦人風のお嬢さんで。
「お尻尾も長くてふさふさですね。」
「くうちゃんのお友達ですか?」
抱っこしたまま歩み寄って来た久蔵を迎える格好、
だがだが、こっち側に先に出て来ていたお猫様も険悪な様子は見せないので、
顔馴染みではあるらしく。
“まあ、久蔵殿にかかったら。”
“そうでした。どんなお転婆でもあっさり手なずけちゃいますよね。”
寡黙な性分の恩恵か、それとも威圧が動物にも伝わるものか、
小さな小鳥から獰猛そうな闘犬まで
こちらのお嬢様がちろんと睥睨しただけで
すぐさま恭順の姿勢を取ってしまうこと、こそりと有名だったりし。
そんな女王様が制すれば、喧嘩なんてとんでもないかもと内心で苦笑しておれば、
「隣りの子だし、くうの姉様でもあるし。」
見ようによっては彼女もその姉妹のお仲間みたいな
ふわふわの金の髪をそよいだ風にくすぐられつつ、
ひょいとかがむと連れてきた子を下ろして差し上げる。
すると、当家のメインクーンちゃんの方からとたとた寄ってゆき、
長い毛並み同士でお鼻をくっつけ合ったり
小さな舌で毛並みを舐めたり、何とも睦まじい様子であり。
「飼ってるばさまが長く出かけるのでと預かった。」
「…ばさま。」
悪気はなくてのむしろ親しみを込めているのだろうが、
それはクールビューティな
美貌と冷然さで有名な三木コンツェルンのお嬢様が、
たまに口を開くとそういう物言いをするのがまた、
“……かわいいvv”
“不思議とvv”
気取ってないとかおぼこいとか、
そんな印象がするものだから
こちらのお友達たちにすれば“可愛い〜vv”とたまらない。
ジャンパースカート仕様の濃い色のスカートへ、
細かい毛並みがくっつきまくりなのも意に介さず、
むくむくしたお嬢さんが仲良く睦みあっておいでなの、
ふふとかすかに口許ほころばせ、
そちらさんも微笑ましいなぁとご覧の紅ばらさんなのへ、
“まあまあお姉さんらしいお顔になってvv”
家人以外では主治医の榊せんせえか彼女らにしか見分けの付かない
微妙な笑顔を堪能しつつ、
「それで、このお嬢さんのお名前は?」
見たところ、ノルウェイジャンフォレストキャットとかいう種類のお嬢さん。
こちらに負けないほどのお屋敷であるお隣の子だというなら、
さぞかし優雅なお名前なんだろと
白百合さんがにっこり微笑って訊いたところが、
「ミケ。」
「………はい?」
特に受けを狙った風でもなくの、それは自然体で、
久蔵がぼそりと告げたのは、随分と庶民的な短い名前であり。
「み、みけ?」
確認するよに平八が繰り返すと、
久蔵が頷いたのに合わせてご当人の猫様もみゃんと高い声で鳴いて見せ、
『ああ、それな。
おばさんやおじさんはもっとこじゃれた名前にしたかったらしいが、
ばさまが猫なんだからミケでいいって決めちまったらしいぜ?』
反対側のお隣さん、弓野さんちの嘉史くんが言うには、
動物好きな御隠居さんのため、
現当主であるご夫婦が取り寄せた仔猫さんの愛らしさに、
まあまあまあとお気に召したはよかったが
すぐさまついたのが“ミケ”という平凡な名で。
『仰々しい名前だと呼ぶのが恥ずかしいじゃないかって、
俺もごもっともって思った理由でミケって決まったらしくてな。』
ちなみに、
さらさらした毛並みも優雅なアフガンハウンドも飼っていて、
そっちはポチと呼んでるらしく。
『ここだけの話、
別な名前にしませんかって息子夫婦がしぶって見せたのへ、』
ここまで言ってから急な思い出し笑いに取り憑かれたか、
くくくっと端正で精悍なお顔を破顔させてしまった
ヨシチカ坊ちゃんが続けたのが、
『お隣のお嬢さんだって、あれほどの別嬪さんでも“久蔵ちゃん”だよ?
それでも遜色ない立派なお嬢さんじゃないかって、
何だか妙な言いようをして黙らせちまったらしくてな。』
『…… 』
『あらまあ。』
うっさいなぁということか、
紅色の双眸を鋭くとがらせたご本人様のみならず、
そういやここに居た三人の別嬪さん方、
全員が男名前という微妙な顔ぶれぞろいであり。
間に鉄柵がなかったならば、
紅ばらさんの天誅蹴りが決まっていたかもという
そんな爽やかな(?)会話もほのぼのと交わされたらしい、
新緑のお屋敷だったそうでございます。
〜Fine〜 16.05.13
*今更ながらの “名前ネタ”でございました。(笑)
三人とも何でこんな名前にしたんだろうと
親御に???だった幼少期だったらしく。
でもって親御にしても
何かが下りてきたとか顔に書いてあったとか
そんな理由だったら笑えますが。(おいおい)
*ところで、
別のお部屋のお話でも挙げたことですが、
今時分に白い小さな花が、梢のところどこへ手毬みたいに固まって咲き、
日本でも古くから庭木に用いられている“こでまり”とも呼ばれている木花。
こちらのお話の中、
三華様たちがお昼休みに集う木陰のことを
この木の木陰だと書いておりますが、
公式に…というか近年広く一般にスズカケと呼ばれているのは
こっちじゃあなくてプラタナスの方だそうですね。
山伏や修験僧の装束、
羽織の襟元へ提げてた“篠懸”の房に似た実を付けるから…と、
ぐーぐる先生に書いてありましたが、
もーりんは別のどこかで、
こでまりもまた、こっちは花の付きようがその“篠懸”に似ているので
そうと呼ばれているってのを見たのが先だったので、
そうと決めつけて書き散らかしておりまして…。
こっちもあながち間違いではなく、
庭木として江戸の昔から親しまれてきた こでまりの古名が“鈴掛”というんですね。
とはいえ、それと知らなかった方々には、
スズカケといったらば…と
巨大な街路樹でもあるあっちを想起させていたのかもしれないなぁなんて、
反省しきりだったりするのです。
めーるふぉーむvv


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